私の好きなTRPGシステムの一つにダブルクロス2nd(以下DX)がある。

 せっかくゲーマーズ・フィールドの別冊で特集を組んだのに、表紙を見ると『タブルクロスの風景』などというマヌケなタイトルにされてしまった可哀相なゲームだ。今月発売のリプレイは、FEARのサイトを見る限り表紙に誤植はなさそうなので一安心である。

 さて、どうにもあのゲームは、強力なコンボを使って敵を殲滅したり、ロイスなどのシステムを使って人間関係を演出するためのゲームだと思っている人が多いように思える。後者はリプレイの影響も強いかも知れない。別に、それが悪いとは言わないが、せっかくの優れたシステムの本質を見ないというのは、やはりもったいない。

 そこで今回は、このDXというゲームが、如何にシステマティックに作られているかを考えたい。

 ちなみに、読者の対象はDXというゲームのシステムと世界観を簡単にでも知っている人だ。DXなんて聞いたことがないというい人や、ルールブックを見たことも遊んだこともない人は、多分読んでもチンプンカンプンだろう。



 もっとも、以下に書かれていることは私の勝手な分析なので、間違っている部分もあるかも知れない。少なくとも、デザイナーの意図とズレている可能性は非常に高い。

 まぁ、DXの遊び方のひとつの例として捉えていただければ幸いだ。



 さて、このゲームの特徴を二つ挙げろといわれたら、貴方はどう答えるだろうか?



 多彩なエフェクト(特殊能力)?

 ロイスによる人間関係をゲームに組み込んだストーリー性?

 世界設定のウィルスの侵食を戦闘で再現できているということ?

 大量のダイスを振る、爽快な判定システム?



 いずれも、答えとしてはアリだろう。

 だが、私はあえて、こう答えよう。



 それは、シーン登場時の侵食率上昇と、『リザレクト』というエフェクトの存在だ。



 もし、二つではなくひとつ答えろと言われたら、『リザレクト』と答えるだろう。

 さて、貴方は、この二つが、なぜDXというゲームに存在しているかを考えたことがあるだろうか? 考えたことがあるならば、既に私の書く結論が分かっているかも知れない。考えたことがないならば、これから先の内容は、貴方のDXに対する常識を覆す可能性もある。



 さて、まずは分かりやすい方から説明しよう。

 シーン登場時の侵食率上昇は、端的に言ってしまえば、多くのFEAR作品に共通する、シーン登場による経験点取得の延長線上にあるルールだ。

 代表的なところでは、トーキョーN◎VAやアルシャードなどが、こうしたシステムを持っている。シーンに登場した回数が多いと、その分多くの経験点がもらえるというものだ。これは、積極的にゲーム参加したことに対する報酬と考えることができる。

 だが、このシステムにも問題はある。ゲーム上、全く意味のないシーンに登場しても、経験点が増えてしまうのだ。また、経験点欲しさにシーンに意味もなく登場するPLが現れることだって十分にあり得る。

 こうしたことへの対応が取られたゲームの代表として、ブレイド・オブ・アルカナ(及び、その2ndエディション)がある。このゲームは、シーン登場ではなく、シーンタロット(ルールブック付属のタロットカード)を取得することで経験点が増えるのだが、このアルカナは、正位置でもらえば後々有利になるのだが、逆位置でもらうと不利になる。シーン登場でもシーンタロットを得ることは出来るのだが、軽々しくもらってばかりいると、最悪の場合キャラクターは殺戮者と呼ばれるNPCと化してしまう。

 DXでは、それが侵食率という形で表現される。侵食率が高い状態でセッションを終えると多くの経験点がもらえるが、高すぎるとジャーム化(つまりはNPC化)してしまうのだ。調子に乗ってシーン登場を繰り返していると、キャラクターは帰らぬ人となる。

 これは、ストーリー的に無意味なシーンを作ることを極力抑えるようにする働きがある。結果として、DXのセッションは無駄なシーンが少なくて済む。



 次は、『リザレクト』というエフェクトについて考えよう。

 私は、このエフェクトの存在はDXというゲームにおける欠陥だと、長い間信じ続けて来た。だが、最近になってその考え方は浅はかだと感じるようになった。

 恐らく、ここまでこのコラムを読み進めてきた貴方は、『リザレクト』がどういったエフェクトかは知っているだろう。死亡・昏倒時またはシーン終了時に、HPを[LV]D10点回復するという効果だ。DXのPC全員が『ワーディング』とともに持っている、基本エフェクトの片割れである。

 このエフェクトは、最大で3レベルまで上げることができるが、レベルを上げる意義がどの程度あるかは不明だ。何せ、回復HPと同じだけ侵食率が上昇してしまうのだから。また、Dロイス『起源種』を取ると、侵食率80%以上でレベルが1点上昇するというのを、ルールに慣れない頃は忘れていたりもする。意外と厄介なエフェクトだ。

 閑話休題。

 前述の通り、私はこの『リザレクト』をゲーム上の欠陥と見てきた。同じように考えている人も多々いるだろう。

 私がそう考えた理由は、『リザレクト』の効果によって、PCが死ぬことがないために、ゲーム上のリスクがほとんど存在しないと思ったからだ。死ぬことがない故に、低侵食率での戦闘は真剣みに欠ける。クライマックスで侵食率が60%ぐらいだと、全く緊張感がない。攻撃による侵食率上昇を度外視すれば、平均で7〜8回も生き返ることができる計算になるからだ。

 だが、それは誤解だった。

 この『リザレクト』の機能は、恐らくコンベンションやキャンペーンに向けて考えられた、DX最大のGM支援ルールだ。

 何故そのように考えられるのだろうか? それは、このエフェクトの存在によって、PCが死ぬということが発生しにくくなっているからという『リザレクト』の根本的な特徴に依拠する。

 PCの死は、PLにとって残念なことであるだけではない。GMにとっても困る場合が多い。

 確かに、ほとんどのTRPGでキャラクターは死亡する。ゲームによっては、その死が容易く訪れるものもある。D&D、ウィザードリィ、シャドウラン、セブン=フォートレスなど、PCの死が発生しやすいシステムの方が、人気は根強いぐらいだ。やはり、ゲームとしてはその方が面白いと感じる人が多いからだろう。

 DXとて例外ではない。PCだろうが何だろうが、死ぬ時は死ぬ。『リザレクト』の効果は侵食率が99%以下の時にしか効果を発揮しないからだ。エキストラに至っては、GMやPLの都合で判定すらないまま簡単に死ぬ。

 ゲームにおける命は、軽い。さもなくば、それはゲームにならないからだ。

 だが、実際のところ、PCに簡単に死んでもらっては困るのだ。特に、昨今のTRPGに多い、ストーリー重視の構成を前提とした場合は。

 だから、DXでは『リザレクト』によってPCの安易な死を防いでいる。これはPLへの配慮と言うよりは、予定外の事態をできるだけ減らしてマスタリングをし易くしようという、GMへの配慮だろう。

 そして、『リザレクト』の面白いところはここからだ。

 一見すると便利な『リザレクト』だが、先に述べたように、この効果には侵食率の上昇が伴う。従って、『リザレクト』の使用は、ジャーム化の危険性を孕んでいる。

 もっとも、『リザレクト』の効果は、侵食率が低い間しかないため、あまりジャーム化と直接結び付けられることはない。どちらかと言うと、タイタスの存在の方が、ジャーム化への危険を連想させる。実際、タイタスによる復活は、自律判定のダイス1D10のリソースに等しく、これは『リザレクト』の上昇侵食率と原則的には同じである。

 そう、『リザレクト』は、使用回数制限が緩い以外は、タイタスによる復活とほぼ同義なのだ。タイタスだけに注意していると、『リザレクト』に足元を掬われるということも、十分にあり得る。



 更に、『リザレクト』の本質はそれだけではない。これは、PC同士がパーティを結ばないDXというゲームの中で、PL同士が協力するように機能する、ストーリー支援システムでもある。

 DXでは、PC間ロイスによってPC同士での人間関係を形作るが、必ずしも全てのPCが協力し合うわけではないし、場合によってはPC同士が敵対していることもある。よって、このゲームでは、PL同士での協力がソードワールドや無限のファンタジアなどのパーティ制ゲームより遥かに重要なのだ。

 だが、PL同士での協力と言ってみたところで、ほとんどのPLは何をすれば良いのかが分からないでいる。せいぜい、シーンPLになった際に、ストーリーを進めようと努力するぐらいだろう。初心者PLに至っては、何をすれば良いのかが全く分からないために、貴重な1シーンを無駄に過ごすことも多い(侵食率5.5点分の損失だ)。

 DXの本質に気付いている人は、無駄なシーンは作らない。もちろん、演出中心のシーン(回想など)を挿入することもあるが、それは単なるお遊びである。

 シーンの有効活用と、PL間の協力とは、DXのストーリーを進めるための情報収集・情報分析が中心となるわけだが、この時、もっとも理想的なのは、戦力になるPCの侵食率を温存することである。

 侵食率が低すぎると、戦闘時に役に立たないから、戦闘系キャラは70〜90%、支援系キャラは85〜95%ぐらいが、衝動判定後の適正侵食率だろう。

 だから、情報収集に特化させたPC(大抵、戦闘時は支援を行う)は、戦闘系のPCのシーンに登場して情報収集や情報分析(必要なら情報分配も)を行う。一方、戦闘重視キャラ同士では、GMが特に指定しない限り、原則としては同一のシーンに出ないようにした方が良い。

 複数の戦闘系キャラが同一シーンに出るとすれば、情報交換や、ストーリーを進行させるのに必要な状況だと判断された場合である。例えば、ボスと思しき敵NPCの顔見せシーンなら、そのシーンにはどのようなPCが出てもいいだろう。



 実は、こうした役割分担は、わざわざシステムの解析をしなくても、DXに慣れている人は自然にやる。特に意識しないでも、情報収集系のPCはシーンに多く登場してその役割を果たすし、戦闘重視のキャラクターはシーンに出しゃばることは避ける。

 これが、DXの侵食率システムの本質だ。

 無駄なシーンは極力廃し、PL同士での役割分担をはっきりさせる。それを、PLに意識させずに実行させる。そのためのツールが、侵食率のシステムであり、ゲーム中に最も侵食率を上昇させる、シーン登場と『リザレクト』の意味なのだ。ただ単に、世界観にマッチしたシステムというだけではないのである。そのトークンをうまく使いこなしたか否かは、ゲーム終了の直前の自律判定において効力を発揮する。きちんと自分の役割を果たしていれば、ごく自然に経験点が多くなるようになっているわけだ。

 結果として、DXは、判定方法などがやや複雑な割りに、初心者でも遊びやすいルールになっている。特に、GMにとっては非常にやりやすい。



 この文を読んで、貴方のDXへの見方は変わっただろうか? 「何を当たり前のことを」と思ったかも知れないし、疑いの眼差しを向けるかも知れない。だが、私は簡単にはこの結論を変えないだろう。

 これだけがDXの正しい遊び方だとは言わない。だが、少なくとも模範的な遊び方だと言ってみてもいいのではないだろうか?




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