さて、前回に引き続きブレイクスルー機能の話である。

 今回はブレイクスルー機能の具体的な扱い方と注意点について考えたい。もちろん、それらについて考えるために必要な考察も交えるが。

 尚、個人的にはこの内容は、現在のTRPG環境を鑑みるに非常に重大な事柄を、私というたかが一個人が勝手に規定しようとしているいわば暴挙であると思っている。従って、貴方が読後に私の文に対して指摘したことがあれば、掲示板やメールなどで知らせていただけると非常に嬉しい。その指摘が確かに尤もだと思えるものならば、内容を速やかに改定することを確約しよう。





 前置きが長くなった。本題に入ろう。

 前回のコラムで、私はブレイクスルー機能の特性を演出と結び付けた。だが、実はもうひとつ、大切な役割がある。



 それは、PCの活躍回数の制限だ。またもFEAR社のゲームを例に出すが、その多くはPCひとりに3回の活躍の場を与えている。いや、PLひとりに3回の演出の場を与えている、と言うべきか。

 そして、ブレイクスルー機能を敵にも持たせれば、結局ひとり平均1回の活躍の場が与えられるというあたりが妥当だろう。その1回のチャンスを手にし、それをうまく使えるか否かは全てPL本人次第である。  こうした回数制限が、そのまま演出の話に結び付いているのに気付いただろうか? そう、ブレイクスルー機能は演出のために使い勝手の良いシステムだが、PCに際限なく活躍させるのがTRPGなのではないのである。だからこそ、回数制限を与えたのだろう。

 だから、GMとしてはPLひとりに1回の活躍の場(ブレイクスルー能力を使うタイミング)を与えるようにシナリオを作った方が良いということになる。

 そのGMの役割を果たすには、ルールブックに書かれている様に、素直にハンドアウトを作成すればよいことになる。何故なら、ハンドアウトには推奨クラスを書くからだ。GMはそこで指定したクラスの持つブレイクスルー能力を使えばPLが活躍できるようにシナリオを組めばよい。

 故に、ここで指定するクラスは設定よりもブレイクスルー能力を優先すべきだ。と言うよりも、シナリオに必要なブレイクスルー能力に合わせて、ハンドアウトの設定を付加させるのが最も分かりやすいだろう。  また、ここで与えたブレイクスルー能力は基本的に無効化すべきではないのも事実だ。それをやってしまっては、元々PLの活躍の場を与えるためにクラスを指定したのに、それが何の意味もなくなってしまう可能性が高い。



 一方、FEAR社のシステムでなければ、大抵の場合そのような細かいことは気にしなくて良い。

 何故なら、ブレイクスルー能力が全PCでほぼ共通しているのが一般的だからだ。PCの能力によって使うタイミングは異なってくるだろうが、ルール的な使用方法はしっかりと画一化されているので、準備段階で注意すべきことは少ない。

 ちなみに、FEARのゲームでも、アリアンロッドやダブルクロスなどは同様に考えて良い。

 この場合、注意すべきはセッション開始後だろう。PLがどのタイミングでブレイクスルー能力を使うかが全く分からないので、GMはゲームバランスなどに常に気を配っていなければならない。

 例えば、無限のファンタジアのグリモアエフェクトは、結構扱いが難しい能力だ。

 GMの視点に立つと、グリモアエフェクトそのものはあまり問題にならない。だが、グリモアエフェクトを使うことで仲間のPCへの感情が結ばれるというのが非常に厄介なのである。何故なら、この感情を貯めておけば、戦闘時にコンビネーションを宣言するだけでボスを一方的に攻撃できるからだ。

 つまり、感情を消費してコンビネーションを宣言し、そのコンビネーションの判定でグリモアエフェクトを使い感情を得て…、と繰り返すことでいわゆるハメ技が完成するのである(もちろん、この程度のことに対応できないようではマスタリングの腕に問題があると言わざるを得ないが)。



 さて、ブレイクスルー能力の扱い方の話に戻ろう。

 グリモアエフェクトは、上記に示した方法を含め、戦闘時での使用が一般的だ。だが、必ずしもそうしなければならないわけではない。

 むしろ、戦闘前の調査や探索などの際にグリモアエフェクトを使う方が、シナリオは面白くなる。どのタイミングで使えばいいのかも、使うことでどれだけの利益があるかも分からないので、ギャンブル性が高まると共に、工夫次第でいくらでもセッションの進行に影響を与えることができるからだ。

 だが、現実的にはPLはこうした使い方はしない。ギャンブル性が高く、工夫次第では非常に有効な戦略は、逆に言えば失敗のリスクが高く、ミスしたら無駄撃ちに終わることもあり得るということだからだ。故に、必然的に戦闘時での使用が一般的になり、パワーゲームの様相を呈するに至るわけだ。

 だから、無限のファンタジアのGMは、単純に考えるなら、戦闘時のバランスをどのように取るかを、(先のハメ技に引っ掛からない様に工夫しつつ)考えればよいことになる。



 尚、戦闘時の能力使用が一般的なのは、他のゲームでも変わらない。例外は、トーキョーN◎VAぐらいではなかろうか(そして、だからこそこのゲームには固定ファンが付くのである)。

 ゲヘナの堕落ルールも、ほとんどは戦闘時に使われる(前編に書いたとおり、戦士系はカウンターの際に使うことが多い)。ダブルクロスのタイタスも、戦闘時以外に使うのは稀だ。ブレイド・オブ・アルカナの奇跡など、∵紋章∵という例外を除けば、戦闘時以外に使いようがないと言っても良いぐらいだ。



 個人的には、町での情報収集やダンジョン探索、向かってくる敵に対して予め戦略を考えるなどの遊び方は大好きだ。正直なところ、戦闘はそのオマケだと言ってもいい。

 私と同じように考える人もいるだろう。大体、戦闘だけしたいなら途中のストーリーなんて別にやらなくてもいい気さえするではないか。

 だが、現実にはTRPGの環境で最も重視されるのは戦闘であり、最も多くのPLが楽しむのもまた戦闘である。元来、D&Dなどの初期のゲームは、戦闘は目的達成の手段の一つに過ぎなかったことを考えると、これはTRPG本来の遊び方ということはないようだ。

 そうした動きが、ソードワールドなどのリプレイに端を発するのか、それとも各地のコンベンションなどで、そうした分かりやすい遊び方に多くのゲーマーが走ったが故か、はたまたコンピュータRPGやマンガ・ライトノベルなどの影響に因るかは分からない。

 私が言えることは、この動きがブレイクスルー機能に端を発するのではなく、ブレイクスルー機能を生み出した原因であると分析できるということだけだ。



 そして、大多数のPLが戦闘時に活躍したいと思っている以上(実際は他の局面で活躍してもいいのだろうが、ほとんどの人はそれを諦めているのだ。理由は前述の通りである)、GMのすべきことは、戦闘時に活躍の場を与えるように工夫を凝らすことなのである。

 少なくとも、ブレイクスルー能力をうまく機能させるには、それが最も合理的だということだ。



 さて、ここまでの話を大まかに纏めると、以下の結論が得られる。

1.ブレイクスルー能力は、PLを活躍させるファクターである。従って、GMはブレイクスルー機能を利用して、全てのPLにほぼ平等に活躍の場を与えるのが望ましい。

2.ブレイクスルー能力を使うタイミングは戦闘時になるのが一般的だ。N◎VAの《真実》《完全偽装》やブレカナの∵紋章∵など、戦闘時以外に使用することを前提とした能力以外は、戦闘時にうまく使わせるように工夫しよう。



 …ところで、自分で書いておいて言うのも何だが、この結論は個人的には非常に気に入らない。

 確かに、どんなPLが来るかも分からないコンベンションでGMをする場合や、GM経験が少ない人なら、上記に書かれたとおりにすればいいだろう。

 だが、何度もGMをした人が、仲間内で遊ぶ時に、上の二つの結論に従ってシナリオを組むと、いつか飽きが来る。

 実際、私はコンベンションで会った人が、「いつも同じメンバーだと飽きる」と言っていたことを覚えている。私の個人的な考え方と異なっていたので危うく口論になり掛けたが(事前に察知してさりげなく止めてくれたGMさん、ありがとう)、これは似通った遊び方ばかりしていたからではないかと推測できる。

 すると、戦闘ばかりではなく、それ以外の部分も充実させてこそ、TRPGは面白くなるのだろうということになる。もちろん、一回のセッションであらゆるところを楽しもうというのは難しいから、セッションごとにどこをどのように楽しむかを、GMは考える必要があるわけだ。

 この時も、ブレイクスルー機能はうまく使えば非常に高い効力を持つ。

 非戦闘用のブレイクスルー機能については、解説するまでもないだろう。ハンドアウトなり何なりで、クラスを指定して、それに合わせて活躍する場を与えれば良い(これができるという点を見れば、確かにFEAR社がブレイクスルー機能を良く理解し、うまくシステムに組み込んでデザインしていることが分かる)。

 指定されているクラスで、明らかに非戦闘系のキャラクターメイクを望まれているのに、戦闘力のみを重視したキャラクターを作るのは、明らかにPLのミスであり、その場合は容赦の必要はないだろう。

 一方、ゲヘナなどの、ブレイクスルー機能が汎用的なシステムの場合、ストーリー中でうまく誘導する必要がある。ゲヘナなら、四行詩の設定が、PLの誘導に使い勝手がいいだろう。それ以外のゲームでも、敵が非常に強力であることを示唆することで、戦う以外の選択肢があることを仄めかすことができる。

 尚、どのようなゲームであれ、できれば、事前に戦闘を重視していないシナリオであることをPLに伝えてしまった方がいいだろう。困ったことに昨今のTRPGのPLは、物事の解決方法が戦闘一辺倒に偏ることに、何らの疑問も感じない者がほとんどだからだ。

 余談だが、こうしたシナリオを作る場合、ブレイクスルー機能のみに頼るのではなく、PLがどのような局面で何をすればよいのかをそれとなく伝えるようにした方がいいだろう。



 何はともあれ、ブレイクスルー機能は昨今のTRPGの大きな特徴であり、GMにとってはストーリー進行を補助するファクター、PLにとっては活躍の場を約束してくれる強力なリソースだ。

 戦闘に使うか否かという差はあれど、それを十二分に生かすことはTRPGを楽しむための必須条件だと言っても過言ではない。

 そして、本質的な機能は非常に似通っているブレイクスルー能力も、ゲームが異なれば使い方は異なってくる。それぞれのゲームごとに、そのブレイクスルー機能が如何なる意義を果たすために作られているのか。GMにせよPLにせよ、各々が自分なりにそのシステムを解析し、いくつかの回答を持っておくことも大切だろう。もちろん、実際のセッションが始まったら、GMの判断を最優先するという前提は覆すべきではなかろうが。



 まだまだ、ブレイクスルーという機能は発展途上の存在だ。

 N◎VAの神業は、確かに面白いシステムだが、ゲーム性を大きく犠牲にした上で成立する危険なものだ。

 ブレイド・オブ・アルカナの奇跡は、戦闘時のみに関して言えば非常に良いバランスを保っているが、ブレイクスルー機能は非戦闘時での使い方も望まれるべきだろう。

 上記の二つのゲームの集大成とも言えるアルシャードの新版が発売間近となっているが、残念ながら効果が画一化されたことにより意外性という側面が削られているというこれまでの欠点がフォローされる可能性は低いだろう。

 ゲヘナの堕落ルールは非常によく出来たシステムだ。このゲームは、堕落ルール以外にのシステムもかなり高く評価できると(個人的には)思う。ただ、ブレイクスルーシステムは画一的なルールとして表記するより、キャラクターの特性の使い分けがあった方がよりシステムの魅力が増す気がする。そうした意味ではSNEが製作したシステムの中でも特筆すべき魅力が多いこのゲームは、その完成度の高さが逆に仇になるように思われる。

 無限のファンタジアは、ゲヘナ同様にルールの画一化によりキャラクターの差別化が弱くなっている気がする。また、ルール上の不備も多い。PBWという試みや初心者にも分かりやすいシステム、フルカラーの読みやすいルールブックなど、評価すべき点は多いが、残念ながらそれを生かしきれていない。

 百鬼夜翔の未使用CPの使用のルールは、確かに戦略の幅を広げるだろう。もちろん、百鬼夜翔以外の世界観でも使用できて完成度も高い。このゲームは多彩なデータでキャラクターの色分けはできるので、あえてブレイクスルー機能による差別化は必要ではないだろうし、第四版は更なるゲームバランスの統制が取れているようなので、今後の展開に期待できる。とは言え、GURPSというシステム自体が、ブレイクスルー機能を搭載するのに向いていないという決定的な問題点を抱えている。

 ブレイクスルーの機能を有するか否かは微妙だが、深淵の夢歩きのシステムはN◎VAの神業の様なブレイクスルーシステムとしての側面を持たせることはできるだろう。だが、神業には前述の扱いづらさを併せ持つし、深淵はそのシステムのコンセプトがGMに必要以上の負担をかけてしまうという決定的な弱点を持つ。



 TRPG自体が貧弱なメディアだ。抱えている問題点は多いし、そもそもブレイクスルー機能などというものがこれから先も残るのかどうかも分からない。

 少なくとも私はTRPGの面白さを知っているつもりではいるから、ブレイクスルー機能がなくなってもTRPGを遊び続けるだろう。だが、ブレイクスルーを用いた楽しみ方も欲しいとは思う。

 いつまで経っても、完璧なシステムは作られることはない。それは、恐らくTRPGに与えられた宿命の様なものだ(宿命という言葉は好きではないのだが)。汎用を謳ったGURPSも、既に汎用性に欠ける部分があることは証明されていると言ってよい。既存の全てのシステムを遊んだわけではないが、他の汎用システムだってそれは変わらないだろう。

 ブレイクスルーシステムにしても、完璧なものは存在し得ない。ただ、汎用システムというものの存在理由が希薄になりつつあるのと異なり、ブレイクスルーはこれから先、しばらくの間は発展し続けるシステムだろう。



 だから、TRPGを遊ぶ者は、ブレイクスルーシステムをよく理解した方がいい。

 もう一度書いておくが、ブレイクスルー機能の最大の効能は、PLに活躍の場を与えるということと、その回数を制限するというものだ。その点にさえ注意すれば、ブレイクスルー機能は確実にマスタリングの助けになる。

 一方で、ブレイクスルー機能を使わないTRPGの楽しみ方もあって然るべきだろう。加えて、ブレイクスルー機能が戦闘という限定的な局面にのみ使用されるという歪んだ状況は、打破されるべきだと考えられるという点も覚えておいた方がいいかもしれない。

 よく言われることだが、TRPGは生まれてからたったの30年しか経っていない、非常に若い(と言うか、幼い)娯楽だ。加えて、作り手と遊び手の距離も比較的近い。故に、変化しやすい。

 確かに、TRPGを作るのはデザイナーだが、私たちの様な1ユーザーが与える影響力は決して無視できない。だからこそ、TRPGを遊ぶ時には、そのシステムの取り扱いには注意を要する。

 特に、混乱を生じやすいブレイクスルーシステムについてはよく考えておくべきだ。

 恐らく、私が書いたこの文の内容は、すぐに古いものとなる。同じように、貴方がTRPGやブレイクスルー機能に対して感じていることも、すぐに古いものになるだろう。

 だから、変化に対応し、よりTRPGを楽しめるように、幾度となくブレイクスルー機能を理解しなおして欲しい。もしかしたら、私と貴方がどこかで共にTRPGを遊ぶその時のためにも。




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