昨今のTRPG環境では、多くのゲームにブレイクスルーの機能が搭載されている。

 代表的なのは、トーキョーN◎VAの神業だろう。判定すらないまま、圧倒的な効力を発揮する神業は、まさにブレイクスルー能力の頂点とも言える。

 また、こうしたブレイクスルー機能は、日本においてはFEAR系のゲームで発展してきたものだと考えられる(発祥ではないだろうが)。実際、セブン=フォートレスやナイトウィザード以外のFEAR作品は、須らくこうしたブレイクスルー機能を有している(例外の二つも、プラーナのルールがブレイクスルーになり得るが、特に低レベルの間は効果が余りに心許ない)。

 もっとも、FEARのゲームでなくともこうした機能は存在する。ゲヘナの堕落ルールや無限のファンタジアのグリモアエフェクトとキマイラ化などがそれに当たる。GURPS百鬼夜翔掲載の未使用CP使用のルールも、一種のブレイクスルー機能だ。

 今回は、こうしたブレイクスルー機能の持つ特徴や問題点を書いて行きたい。尚、本文は『ブレイクスルー』というタイトルのTRPGコラムの前編であり、話の内容は後編へと受け継がれる予定であることを記しておこう。



 ブレイクスルー機能は、主にPLの見せ場を作るためのシステムとして機能する。また、一部のゲームではこうしたブレイクスルー機能をPCのみの特権的なルールとして使用することで、PCが特別な存在であることを示している。

 実際、こうした能力を持たないままでは絶対に勝ち目のない敵に、互角以上の戦いを挑むことができるようになる、ゲーム上の重要なリソースだ。

 D&Dやソードワールドなどを中心に遊んでいる人には想像し辛いかも知れないが、このブレイクスルー機能を如何にうまく扱うかが、PLとしてもGMとしても、TRPGにおける腕の見せ所になっている節もある。



 そして、これらブレイクスルー機能の使い方(或いは扱い方)にも、ある程度のセオリーがある。



 例えば、FEARのゲームの多くは、PCの敵もブレイクスルー能力を持つわけだが、基本的にGMは、敵の持つブレイクスルー能力の数をPCが持つそれより少なくするべきということになっている。大抵の場合、ブレイクスルー能力は他の能力では打ち消すことができないので、必然的にブレイクスルー能力同士で打ち消しあうことになるからだ。

 結局、単純計算すると、敵と味方のブレイクスルー能力の差が、PC側の所持するリソースになる場合が多い。PCの能力や戦略如何で、ひとつか二つぐらいの差は現れるが、せいぜいその程度だ。そして、『その程度の差』が、戦いの趨勢を決定する。要するに、PCの能力が戦闘に与える影響は、この差額分のブレイクスルー能力に依拠する部分が大きく、一般的な能力値などの効果が(ブレイクスルー機能を持たないソードワールドなどのゲームと比べて)非常に小さいのである。



 また、ゲヘナの場合、堕落するタイミングと言うと、およそ半分はカウンターに失敗した場合である。このゲームでのカウンターは非常にハイリスクハイリターンな効果を持つので、軽々しく使うには危険だし、同時に逆立ちしても勝てない相手に勝利するための必要な手段でもある。だから、もっとも重大な局面でカウンターをして、失敗した場合は堕落することでそれを回避するわけだ(まさしくブレイクスルーである)。

 もちろん、カウンターをするのは主に前線で戦う戦士系のキャラクターで、魔法系のキャラクターの場合は魔法の強制力(要するに成功度)を上昇させるのに使う場合が多いだろう。特に、効果が不安定な神語術の使用の際に堕落する場合が多い。あとは、防御の際に堕落して死を免れるというパターンだろうか。



 それに対して、無限のファンタジアのグリモアエフェクトは使用タイミングが多様である。使用回数制限も緩いので、普通にゲームをしているだけでもかなりの頻度で使われる。

 これは、アリアンロッドのフェイトやダブルクロスのタイタスにも共通する特徴だろう。



 さて、こうしたブレイクスルー機能だが、先に述べたとおり、これをうまく扱うか否かがゲームに大きく作用する、ある意味では非常に危険なシステムであり、トークンだ。

 PLとしては、如何にブレイクスルー機能を使うかが、GMとしては、如何にブレイクスルー機能を処理するかが、それぞれのゲーム感に関わってくる。

 実際、ブレイクスルー機能への対応は、個人の価値観にあまりに左右されすぎる。正直なところ、これらのシステムは今のTRPG環境においては危険物であるのではないかと危惧するほどだ。



 例えば、コンベンションで、N◎VAの神業の扱いが私の常識とは大きくかけ離れていることがあった。RLは何度も《ファイト!》などでキャストの神業を増やし、あまつさえ、神業の効果は演出次第で何でもあり(極端な話、演出次第では《真実》で敵を即死させてもOK)、使用したら無条件で経験点になるというものだった。

 いくらルールブックに『常識を爆破せよ』と書いてあるからといって、ここまで完膚なきまでに爆破しなくてもいいだろう。

 RLとしては、PLの好きにさせたいとか、キャストの見せ場を増やしたいという意図があったのかも知れないが、単に経験点が欲しいだけと思われても文句は言えないマスタリングだったと思う(まぁ、もしそうだとしても、好きにしろって気がするけど)。

 この場合、キャストに直接的な被害が及ぶわけではないからまだいいのだが、ブレイクスルー機能の扱いが異なることによりトラブルが発生するというのは珍しいことではないのではなかろうか。特に、効果が多様で、演出によっては拡大解釈も許されるトーキョーN◎VAの場合は。



 もちろん、これはN◎VAだけの問題ではない。

 もう一度繰り返すが、ブレイクスルー機能が日本の多くのTRPGの核となるシステムの在り方として、ひとつのスタンダードを形成しつつある今、それを如何に扱うかはTRPGゲーマーのゲーム感に直接影響を与える。



 実際、ゲヘナの場合、ブレイクスルー機能である堕落ルールを使うかどうかはGMの匙加減ひとつでどうとでもなる。これは、扱い上は選択ルールだからだ(ほとんどの人は使うだろうが)。また、カウンターも選択ルールである。

 だから、それらを一切使用せずに、淡々と攻撃・防御を繰り返すという遊び方だってできるのである。ゲヘナの場合、連撃のシステム上、それでも十分に緊張感のある戦闘を楽しむことはできるし、敵がカウンターを使うこともないので、かえってバランスの取れた遊び方ができる。

 敵も味方もハイリスクハイリターンな戦術を有し、それによりPCが不利にならないように堕落というブレイクスルーシステムを搭載するのは、果たして意味があることなのだろうか? 疑問を感じる人がいても不思議はない。

 実際、世界的に人気のあるD&Dをブレイクスルーなどという不安定なシステムなしで遊んで、十分に楽しんでいる人がたくさんいるのだ。

 つまり、ブレイクスルーは必ずしも必要なものではないのである。



 こうしたブレイクスルー能力について、通常の特殊能力などと同じく、効果はもちろん、使用のタイミングや対象にできる者の範囲まで、細かく定められているシステムが段々増えてきている。無限のファンタジアのグリモア・エフェクトなど、判定時に宣言して使う以外に使い方はないのだから、処理上の混乱が起こる可能性は考えにくい。

 逆に、FEARのゲームを好む人は、その曖昧な表現、混沌とした処理系が好きな場合も多い。後付の演出が自由であることは、演技が好きな(と言うか、自己陶酔したがる)ゲーマーにとっては垂涎の的だ。だからこそ、トーキョーN◎VAは(私を含む)根強い固定ファンを確実に増やしてきたのである。これは、FEAR社が作る他のゲームにも確実に受け継がれている。

 そして、現在ではこの現象が、下手をすればTRPG全体に広がっている節がある。FEAR社のゲームでなくとも、演出を重視して遊ぶ人はかなり多い。

 このこと自体が直接に問題があるとは言えないかも知れない。しかし、長期的に見れば、それにより演技や演出が苦手な人がTRPGをできなくなってしまうことだってあり得る。これは、昔から言われてきた話だが、TRPGという遊びが敬遠(と言うよりも、嫌悪かも知れないが)される理由に、演技の要素が強いと思われているところがある。それを助長させるのがブレイクスルー機能だとすれば、それはTRPGの未来に暗雲を齎すものに他ならない。



 話の風呂敷を広げすぎたので、一旦内容を整理しよう。

 ブレイクスルー機能の存在により、以下の効果が現れる可能性が出てくると考えられる。

1.PCの活躍する場がルールで保障される。また、活躍する回数が一定の範囲に収まりやすい。

2.PLの演出を補助することができる。演技などが苦手な人も、それなりに演出できる可能性が出てくる。

3.演技などをやる気がない人が、TRPGに参加しにくくなる。また、それ以上に問題なのは、演技が苦手なPLに演技を強要する参加者が現れる可能性があることである。一方、演技が苦手な人のせいで盛り上がっていた雰囲気が壊される場合もあり得る。

4.処理系が非合理になる。故に、初心者が寄り付かないし、参加者の間でゲーム上の処理の認識が異なることで争いが生まれる場合もある。



 上から順番に、段々とマイナスの要因となっているように書いてみたが、これを見る限りではブレイクスルー機能そのものに問題があると言うより、そうしたゲームばかりが製作されているということに問題があるのではなかろうか。

 同時に、日本においてD&Dやソードワールドの人気が現在でも根強い理由のひとつに、下手にブレイクスルーなどの分かりにくい内容を組み込んでいないから、というものがあると考えられる(予断だが、私はD&Dはともかく、SWははっきり言って大したシステムではないと考えている。単に好き嫌いの話だが)。



 ところで、上記の内容の内、2と3の間には、一見すると矛盾しているかのような論理が展開されている。

 2の内容に従えば、ブレイクスルー機能により、TRPG初心者を初めとする演技の不得手な人が、演技をしやすくなることでゲームに参加しやすくなるということになる。一方、3の内容によると、演技をする気がない人が、(ブレイクスルー機能の演技を補助する効果により)ゲーム参加しにくくなるという問題が書かれている。

 正直なところ、演技云々の話は私が論じるまでもなく多数の人が話し合っていて、それでも結論が出ない、言わば水掛け論の相を呈している以上、あまりその話に踏み込んで考えるのも意義はないと思える(尚、個人的には山北篤氏のカイヨワの思想によるアビリティ・プレイとキャラクター・プレイの差別化が今のところ最も妥当な結論だと思う)。

 ただ、上記の2と3それぞれの内容は、前者が『演技が苦手な人』、後者が『演技をする気がない人』としているのできちんと差別化はできていることを付記しておく。

 問題なのは、ルールブックを持っていないような初心者や初期のD&Dから遊んでいる古株ゲーマーを中心に、『演技が苦手な人』が演技を強要されることで『演技が嫌いな人』になってしまう可能性が大きいという点だろう。

 その上で、現在のTRPG環境において、演技を求めるか否かにより、各ゲーマーの温度差が異常なまでに大きいという現実を考えるべきなのは事実だろう。同時に、その問題をブレイクスルー機能に責任転嫁するのは愚かだということも言える。



 即ち、確かにブレイクスルー機能は、例えばFEAR社が言う様に、低迷していた(まだ、している、と言った方がいいのか?)TRPG業界における救世主であると手放しに賞賛するほどのものかどうかは疑問だが、一方で、TRPGの新たな可能性のひとつ、選択肢のひとつとしての価値は認められて然るべきだ。

 そして、ブレイクスルー機能最大の特徴が、演技・演出の補助という点にある以上、それを求めてTRPGを遊ぶ際にこそ使われるべきなのであって、そうではない遊び方をする時には必要ない。

 実際、フォートレスアタックをメインの遊び方とするS=Fでは、ブレイクスルー機能は搭載されていないのだから、デザイナーサイドではこんなことは常識なのである。ただ、ユーザーの方が勝手に勘違いしているという現状に、フォローがあまりに少なすぎるのだろう。



 さて、今回の話はここまでだ。後編では、実際にブレイクスルー機能を使う際の注意点などを書いて行きたいと思う。




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